私はカウンセラーでも、教育専門家でもありません。ただの、一人の不登校児童の親です。
娘が不登校になってから、私自身たくさん悩み、迷い、考えてきました。この記事に書くのは、そうした経験の中でたどりついた私なりの考えです。
断定口調で書いているところもありますが、それは私の主張であって、誰かに「こうすべき」と押しつける意図はありません。きっと反論もあると思いますし、科学的な根拠があるわけでもありません。
でも、同じように悩む誰かの参考になればと思い、言葉にしてみました。
不登校そのものは「解決すべき問題」ではない。
不登校と聞くと、多くの人は「解決すべき問題」として受け取ります。実際、私たちも娘が不登校になったとき、最初に考えたのは「どうしたら学校に戻れるか」ばかりでした。でも時間が経つにつれて気がつきました。
不登校は「症状」であって、それ自体は原因ではないと。
言い換えれば、不登校とは子ども自身が発している「火災報知器の音」のようなものです。そして、学校に戻そうとする行為は、火災報知器が鳴っているのに「うるさいから」と言って音を止めてしまうようなもの。
確かに音は消え、静けさは戻るかもしれません。でもその先にある“火事”――つまり本当の原因――に目を向けなければ、何も解決していません。むしろ、見えないところでじわじわと燃え広がっている可能性すらあるのです。
火元に目を向ける
では、「火事」とは何なのか。それは子どもが感じている不安、プレッシャー、居場所のなさ、疲れ、恐れ、孤独感…そうした、見えにくく、でも確かに存在する“心の火種”です。
不登校という形で表に現れるまで、その火種は長い時間をかけてじわじわと積み重なっていたのかもしれません。そしてそれは、大人の目にはなかなか見えないものでもあります。
でも、それを無視したまま「学校に戻そう」とすることは、本当の意味で子どもを助けることにはならないのです。
親としてできること
親としてできるのは、火災報知器の音を止めることではなく、火元を探し、必要であれば一緒に消火することです。
- 「どうして行けないの?」ではなく、「今、どんな気持ちなの?」と聞くこと。
- 評価せず、否定せず、ただ話を聞くこと。
- 解決策を急がず、安心できる時間と空間を整えること。
- “学校に戻る”以外の選択肢もあると伝えること。
これらはすぐに効果が出ることではありません。でも、子どもが「わかってくれる人がいる」と感じられることが、火を小さくし、やがて消していく大きな力になると思います。
「学校に戻ること」だけがゴールじゃない
私たちはつい、「学校に戻ること=回復」と考えてしまいがちです。でも、それは本当にその子にとっての幸せでしょうか?
大切なのは、その子が自分のペースで、自分らしく生きられるようになること。
学校に戻るかどうかは、その過程の一つにすぎません。
むしろ、「不登校」という形で立ち止まったからこそ見える景色や出会える学びが、必ずあります。
火災報知器を“止めていい”ケースもある
ここまで、不登校を「火災報知器の音」にたとえてきました。でも実際の火災報知器にも、“止めていい”場合があります。たとえば、本当に火が出ていないと確認できたとき。
単なる湯気だった、煙感知器の誤作動だった、換気の問題だった──。
そういう場合は火災報知器を止めた方がいいかもしれません。むしろ、そのまま放っておくと日常生活が混乱してしまいます。
不登校も、それに近いケースがあります。たとえば、
- 一時的な体調不良や精神的な疲れ
- 友達関係の一時的なトラブル
- 宿泊行事のあとなど、一過性のストレスによるもの
こうした場合は、しっかり休養し、話を聞き、心が落ち着けば自然と回復に向かうこともあります。「火が出ていない」と確かめたうえで、火災報知器のスイッチを切るような対応です。
ただし、それを見極めるのはとても慎重にやる必要があります。“火がないように見える”だけで、内側ではくすぶっていることもあるからです。
だからこそ、子どもの様子を「表面」だけで判断するのではなく、小さなサインにも耳を澄ませることが大切になります。
親は何を見て、どう判断すればいいのか?
「これは一時的なものか、それとも火がくすぶっているのか」──それを見極めるのは、親にとって本当に難しい判断だと思います。
ですが見極めるには、いくつか目を向けるべきポイントがあります。
1. 表情や口数がどう変化したか
元気そうに見えても、目の奥に力がない、笑顔が消えた、言葉が減ったなど、微妙な変化がヒントになることがあります。
反対に、家でリラックスした様子が増え、安心している雰囲気があるなら、心の回復が始まっている可能性もあります。
2. 学校の話題にどう反応するか
「学校」というワードに対して、過剰に反応したり、黙り込んだり、怒り出したりする場合は、まだ火がくすぶっているかもしれません。
逆に、「友達はどうしてるかな」「体育は好きだったんだよね」など、少しでも前向きな反応があれば、それは前進のサインとも取れます。
3. 体の不調が続いていないか
心のストレスは、腹痛や頭痛、めまい、倦怠感として現れることもあります。
休んでいる間にそういった不調が減っていくようであれば、回復の兆し。
逆に、家にいても体調が戻らない場合は、もっと深い部分に目を向ける必要があります。
4. 子ども自身の「行きたい気持ち」がどこにあるか
学校に限らず、「これがやりたい」「外に出たい」「誰かと関わりたい」などの気持ちが芽生えているかどうかも大きな手がかりです。
その“芽”を一緒に育てることで、学校に戻る/戻らないにかかわらず、自信や生きる力につながっていきます。
「戻す」より「整える
不登校の対応において、「戻す」よりも「整える」ことが大切です。
つまり、焦って元の場所に引き戻そうとするのではなく、今いる場所で心を整え、エネルギーを取り戻す環境をつくるということ。
子どもが安心して呼吸できるようになれば、やがて自分の足で歩き出すタイミングがきます。
それがたとえ学校ではなくても、その子にとっての「安全な学びの場」が見つかれば、それで十分です。
おわりに
不登校は、子どもからの大切なサインです。
その音を「うるさい」と感じて消してしまうのではなく、「何が起きているのか」を一緒に見つめること。それが、親にできる一番のサポートなのではないかと、今の私は思っています。
火災報知器は、火事が起きたときに、命を守るために鳴るもの。それと同じように、不登校は子どもが自分を守るために選んだ「行動」なのかもしれません。
焦らず、責めず、比べずに。
親子で一緒に、少しずつ前に進んでいけたらと思います。